• 北口ユースケ

スタンディングオベーション!

最終更新: 2018年5月28日


Photo by Jordan Lema

 

 コンペ作品の「EN GUERRE」の招待チケットをゲットした後、上映までまだ時間が合ったので、ちょうど良い隙間の時間にやっていたトークセッションを聞きにいく。タイトルは「RAISING MONEY AND RETURNING IT TO INVESTORS」つまり、「資金調達と投資家へリターン」する方法。今後、本格的に映画を作って行きたいと決意を新たにしたばかりの私にとって、これはスルーするわけにはいかんでやんす。と周りに日本人がいないのを良いことに、普段使うことのない恥ずかしい語尾をつけて大声で言ってみるでやんす。

 しかし、大阪在住のアメリカ人トーマス・リンドブルームを伴って開始時間ギリギリにいくと、すでに満席。立ち見。私とミスター・リンドブルームは外野から、覗く。外野と言ってもほとんどオープンスペースなので、聞こえます。見れます。映画制作をするにはクリエイティブな面とビジネス面と両方ともが必要なんですが、俳優上がりの私にはビジネス面のことはさっぱりわからず、このままやったらあかんなー、りっぱな映画監督にはなられへんなー勉強しよと思いながらトークセッションを聞くのですが、英語が難しすぎてほとんどわからず。頼みの綱のミスター・リンドブルームに後で解説を頼むも、「英語はわかるけど内容が難しすぎる」と言う。「この役立たずのファッ◯ンアメリカ人が!」とは言わず、「そうかあ。難しいんかあ。やっぱり映画監督の夢は諦めるかあ」とも言わず、ただヘラヘラしながら「むずいなあ。お金のことはむずいなあ」とアホみたいに繰り返して屁をこくのみ。


「じゃ、そろそろ上映観に行くから」と、仲間たちとも適当に別れ、「終わったら連絡しまーす」と自分がwifiを持っていないことも忘れ、呑気にコンペ会場であるリュミエール大劇場へ。

 このリュミエール大劇場へ行くための動線がいわゆるレッドカーペット。観に言った回は、夜に行われるワールドプレミア上映ではなく、日中に行われる再上映の回。なので、ドレスコードはなく、ラフな格好でも参加可能。少し残念だったのが、並んだゲートが階段の真下から入るゲートだったので、フラットなカーペットの上は歩けず、階段のみ歩く。それでもやはりレッドカーペット。腐ってもレッドカーペット。「おお、これがレッドカーペットの感触。カーペットは真ん中だけで、両サイドは赤いコンクリートかいな。へえ、ほええ」とまたアホみたいな声を出しながら、長年膨大なお金と時間を費やして習得した演技テクニークの一つ「五感の記憶」をここぞとばかりに駆使して、カーペットの上の感触を足の裏でしっかりと記憶する(裸足ではない)。「いつか自分の作品でこの上をもう一度歩くぞ」という感じの意味、またはニュアンスを込めた、ため息を吐いて劇場内へ。劇場に入ると、先ほど通って来たレッドカーペットの中継がスクリーンに映し出されている。私たちパンピーあるいは一般人が入場した後、セレブあるいはセレブリティーたちが順に入ってくる。最後にステファヌ・ブリぜ監督と主演のヴァンサン・ランドンはじめ関係者たちが拍手で迎えられる。そして上映が始まる。もちろん「NO MORE映画泥棒」も「鷹の爪団」も流れず、本編から始まる。

 今後日本でも多分公開されるだろうから、内容は触れないでおくが、圧巻。ステファヌ・ブリゼの過去作品は恥ずかしながらノーマークでしたが演出が超わたくし好みですやん。大好物ですやん。何で今まで見てなかったんやアホが!というニュアンスを込めて太ももをつねる。眠いわけではない。気がつけば、前のめりになって映画に見入る。「半分即興でやっとりますなこれは。生々しい演技やで!生々しい演出やで!」という意味、あるいはニュアンスを込めた笑みを浮かべながらニヤニヤ観賞する。良質な映画に出逢って嬉々として観ている時の私の顔は随分間抜けな顔をしているかと思うので、「映画館が暗闇でよかった」などと、しょうもないことを思いながらエンドロールを迎える。スタンディングオベーション。感動。スタンディングオベーション。二回言うたった。

 過去作は未見だったし何の思い入れもない監督だったけど、満場のスタンディングオベーションを浴びて思いがこみ上げるステファヌ・ブリゼの表情がスクリーンに映し出されたのを見て、わたくしももらい泣き。ええいいああ君からもらい泣き。映画を作っていてこんなに幸せな瞬間はないだろうと、自分のイメトレ用素材にしっかりとその光景を脳裏に焼き付ける。いつか私もここで号泣したいとミーハーな夢を想い描く。「五感の記憶」を駆使して具体的に思い描く。

 「ああ、ええもん観た。ええ体験でけた。チケットくれたモンゴルのプロデューサーに感謝やな。いやあ、よかった。帰ったらAmazonでステファヌ・ブリゼ作品ポチっとしよ~と。さ、他のみんなはどこにおるんかいな」とヘラヘラしながら劇場を後にする。

・・・Wifiないやんけ!



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